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痛風・尿酸ニュース

筋原性高尿酸血症:病態概念の提唱を巡って

嶺尾 郁夫(ペガサス馬場記念病院 糖尿病科 部長)

第57回日本痛風・尿酸核酸学会総会は、本年2月に鳥取市で開催された。鳥取は大学時代を過ごした懐かしの地である。鳥取駅前はスタイリッシュに整備され、本通りの商店街もすっかり様変わりしていた。この驚きを荻野和秀会長に話すと、「ずいぶんと時間が経ってますからね」と。なるほど、考えると50年以上も歳月は流れている。ただ、私の脳内記憶に鮮明に刻まれている風景とのギャップに、浦島太郎の心持ちになる。本総会では、「温故知新:日本から世界へ発信した新知見~若手研究者へのメッセージ~」と題したシンポジウム1が企画され、80年代に当時の大阪大学第2内科から私共が提唱した「筋原性高尿酸血症」について、シンポジストとして講演の依頼を頂いた。ナツメロ番組で昔の曲を唄う老歌手のようでもあるが、大学OBに登壇の機会を設けていただいた久留一郎先生をはじめ鳥取大学の学会員各位の配慮に心より感謝したい。

筋原性高尿酸血症とは、「筋肉のエネルギー代謝が障害される患者において、エネルギー需要が増大する運動時に、筋肉でプリン分解が異常に亢進するために発現する二次性の産生過剰型高尿酸血症」と定義できる。本病態は、プリン代謝異常の主座が肝臓や腎臓ではなく、筋肉にある点が特徴であり、糖原病VII型(Tarui病)をはじめV型やIII型患者の分析を通じて導かれた。これらの病型は、グリコーゲンの利用障害に基づく代謝性ミオパチーで、筋グリコーゲン病と総称される。筋グリコーゲン病における糖質代謝異常とプリン代謝異常を結ぶ点と線は、アデノシン三リン酸(ATP)にある。ATPは、細胞におけるほぼ全ての最終的なエネルギー産生を司る重要なプリン化合物であり、生体のエネルギー通貨と呼ばれる。細胞のエネルギー要求が急速でなければ、消費されたATPは糖質や脂質のエネルギー基質を利用して速やかに再合成される。筋運動ではATPはイノシン酸(IMP)まで分解されるが、このプリンヌクレオチドは筋内に保持され、運動回復期にATPに再合成される。しかし、糖質利用が障害される筋グリコーゲン病では多量のIMPが蓄積し、プリン塩基であるヒポキサンチンにまで分解される。この尿酸前駆物質は筋肉から血中へ放出されるため、肝臓に取り込まれて尿酸にまで代謝される結果、高尿酸血症が発現するのである。

私共は、筋グリコーゲン病患者をスクリーニングする阻血下前腕運動試験を行う際に、当時新たに見いだされた筋AMPデアミナーゼ欠損症を鑑別する目的で、IMPと共に生じるアンモニアの反応も測定していた。その結果、筋グリコーゲン病患者ではアンモニアが過大反応することを意図せずに知り、本疾患で筋プリン分解が異常に亢進することに気づいたのである。セレンディプティは、予期せぬ偶然がもたらす幸運と訳すことができ、多くの発明や発見に関与した実例が知られている。せっかく訪れたセレンディプティを掴み取るためには、日頃より前向きに行動し、幅広い好奇心を持って常に考えを巡らす状態にあることが大切であり、このことを若手研究者へのメッセージとして講演した。シンポジウム2では「痛風・尿酸核酸領域のアップデート~最近の論文まとめ読み~」と題し、沢山の若手研究者が豊富な内容を短時間で手際よく発表された。若いパワーが、本学会を「未来へ、 そして世界へ」躍進させて行くことを、荻野会長と共に祈りたい。

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